原状回復はどこまでが範囲?オフィスの原状回復の工期や流れを解説

オフィス移転を行う際に発生する原状回復は、前もって準備をしないで進めてしまうと工事見積が高額になりがちです。しかし、逆に言うと、原状回復がどこまでの範囲であるか、期間や流れを把握し、正しく進めていくことができれば、費用を適正にすることができます。本コラムでは原状回復の工事を進める上で必要なポイントを流れに沿って解説します。

オフィスの原状回復
オフィス移転を行う際には、原状回復と呼ばれる「物件を借りた(契約した)時の状態に戻す」工事が、物件を退去するまでに行う必要があります。事務所仕様の物件を借りた場合、原状回復の範囲や完了するまでの流れは、民間住宅のそれとは異なります。オフィスの原状回復工事は、工事区分に基づいて実施されることになります。
工事区分について
工事を実施する範囲については、A工事、B工事、C工事という区分が「工事区分表」によって設定されています。工事箇所やその内容によって誰が工事会社を指定して、誰が工事費用を負担するのかで定められています。特にB工事は貸主であるオーナーが工事会社を指定し、費用負担はテナント(借主)となる工事であり、見積価格が高額になる恐れがある工事です。
ABC工事の詳しい内容についてはこちらをご参照ください。
A工事、B工事、C工事とは?工事区分についてわかりやすく解説
https://nac-s.net/media/column/a153
A工事 | B工事 | C工事 | |
---|---|---|---|
工事会社の指定 | オーナー | オーナー | テナント |
工事会社への発注 | オーナー | テナント | テナント |
工事費用の負担 | オーナー | テナント | テナント |
主な対象範囲 ※対象範囲は物件により異なります |
施設の共用部 エレベーター、共用トイレ 共用通路 標準的な設備 等 |
分電盤 給排水 防水防災設備 厨房給排気 空調設備 等 |
内装工事 什器備品 照明器具 電話工事 等 |
オフィスの原状回復の範囲
それでは、オフィスの原状回復の範囲がどこまでになるのでしょうか。個人の賃貸住宅の場合、「原状回復は、借主が借りた当時の状態に戻すことではない」ことが国土交通省のガイドラインで定められています。一方でオフィス物件の場合は、「借主側の都合で既存設備を移設する」、「オリジナリティのある内装にする」など借りた後の使用方法が借主によって様々のため、原状回復の範囲を個別で契約内容を変更していくことが困難です。また、建物の資産価値を維持しなければいけない貸主にとっては、借主側で工事されることがリスクであるとも考えられています。そのため、オフィスビルや事務所を退去する時の原状回復については、借りた状態に戻して退去することが賃貸借契約や特約で定めているのが通常です。(国土交通省のガイドラインで定められている「通常損耗」及び「経年変化」などを考慮しない)
オフィスの原状回復にかかる期間
オフィスの原状回復にかかる期間は、100坪未満のオフィスの一般的な工事期間は2週間から1ヶ月程度。100坪以上のオフィスの一般的な場合は、1ヶ月程度を目安として見ておくと良いでしょう。しかし、建物の共用設備が多いB工事部分の原状回復が多いと、さらに工期は長くなる可能性があります。そのため、物件ごとに工期(工事の期間)は確認していく必要があります。またそれと同等以上に重要なことは、工事を発注する期限を把握することです。工事のスケジュールを作る際には、いつまでに発注する必要があるのかを念頭に入れながら作成していくと良いでしょう。
オフィスの原状回復工事の流れとポイント
オフィスの原状回復を計画する場合に、貸主に退去の旨を伝える前から準備しておくと良いことがあります。原状回復の流れに沿って、工事費を適正化させていくポイントも合わせてお伝えします。
貸主に退去を伝える前にするべきこと
①賃貸借契約書や関連書面を確認する
①-1 原状回復工事の内容と範囲を確認する
①-2 施工会社は指定業者であるかを確認する
①-3 ABC工事の範囲について把握する
①-4 解約予告期間を確認する
①-5 原状回復を実施するタイミングを確認する
②退去までに必要なタスクを整理し、大まかなスケジュールを作成する
オーナーに退去を伝える前に、大まかで構いませんので、退去完了までに発生するタスクやスケジュールを確認するようにしましょう。解約をオーナーに伝えると、実施していくべき沢山のことの期限(退去日、工事発注日など)が決まることになり、あっという間に時間が過ぎていくことになります。物件の明渡し日、工事期間、工事発注締切日、施工会社の選定期間などの内容を余裕を持って進めていけそうか確認すると良いでしょう。
③退去に伴う費用がどの程度となるか予算感を把握する
オフィス移転の場合だと、プロジェクトに必要な予算は、現在入居している原状回復工事や移転先の内装工事、物件取得費、引っ越し費用などが挙げられます。詳しい費用項目の内容については、下記コラムをご参照ください。
オフィス移転・事務所移転の費用とは|見積の削減ポイントも紹介
https://nac-s.net/media/column/a329
④オーナーに退去について伝える
その他/番外編
・入居の経緯を確認する
どの様な事情で現テナントに入居するに至ったかを確認しておくと、後々の交渉において良い材料となる可能性があります。例えば、もし、貸主側と関係のある誰かの紹介で入居したなどの場合において、交渉時の切り口として活用できるかもしれません。
・原状回復工事は高額になりやすいことを社内で合意形成する
原状回復工事は、構造上の問題から高額になりやすいケースが多々あります。高額になりやすいという認識を現場担当者と経営層で形成することを事前に認識合わせをすることで、工事費を低減させていくための体制や対応が取りやすくなるでしょう。
施工会社から見積を受領する前にすべきこと
⑤C工事があれば、候補の施工会社をリストアップする
C工事を実施する場合、見積受領する候補の施工会社をピックアップしましょう。C工事は自社の費用負担で施工会社を選定する工事区分です。原状回復においても相見積もりを実施し、工事内容や金額を適正にしていく流れを作ると良いでしょう。工事会社の選定についての詳しい内容は下記コラムをご参照ください。
工事発注時に気をつけるべき4つの基本的なポイント
https://nac-s.net/media/column/a38
⑥工事区分の範囲を貸主側と調整し確定する
ABC工事の範囲については再三お伝えしている通り、どの工事がどの区分に該当するかは工事費に大きな影響を与えます。工事区分表に記載されていない工事が発生、もしくは、記載があってもその時々の状況により、B工事からA工事へと区分変更するなどして、費用低減することが可能になります。工事内容を確定させるにはB工事の指定業者やC工事業者も同席の上、現地調査が必要となります。現地調査にて工事内容の確認を行うためには、施工会社から質疑があがるため専門的な内容に対応する必要が出てきます。
⑦工事が可能な時間帯や曜日を確認する
物件の立地や他テナントの状況により、工事は休日、夜間のみという制限が生じる可能性があります。制限がある場合はスケジュール、見積費用に影響が出るため、工事会社と調整する必要となります。例えば、建物への出入りについて時間や人数の制限が出てしまう場合は、その分の人工代(作業員、職人の人件費)を余分にかかることになります。そのため、工事見積は工事を行える条件によって変動していきます。
⑧工事発注の期日を確認する
昨今は特に、材料不足などの影響から納期の遅れが出ており、発注期日が早まっている傾向にあります。そのため、工事の発注期日は事前の確認事項としても重要な項目といえるでしょう。
⑨施工会社から見積を受領できる日付を確認する
見積を受領する候補の施工会社には、見積提出の日付をしっかりと確認するようにしましょう。施工会社はなるべく提出する見積の精査する期間や発注までの期間を短くしようとする動きをするものです。そのため、見積の検証や交渉期間の必要日数を確保し適切なスケジュールを作成するためにも見積提出期間を約束させる形で確認すると良いでしょう。
⑩明渡し期日から逆算したスケジュールを作成する
スケジュールに必要な項目の一例を上げると、工事発注期日、見積内容の検証期間、交渉期間、再見積もりの作成期間、工事期間、明渡し日等になります。退去を貸主側に伝えると、まず確定する項目は明渡し日になります。退去しなければならない明渡し日から逆算して、各項目の納期や期間を設定していくようにしましょう。また、気をつけなければならない点としては、こちら都合のスケジュールを作成するのではなく、施工会社側にも考慮したスケジュールを作成することです。施工会社が見積を作成するにも、オーナー、元請け・下請けの施工会社など多くの利害関係者が存在しており、作成する担当者は各社を調整していく必要があります。そのため、単に見積もりを作成すると言っても十分な期間が必要となるのです。
⑪図面を準備する
準備すると良い図面は、平面図の他、白図、床伏せ図、天井伏せ図、電気設備図面、給排水設備図面、空調換気設備図面、防災設備図面などです。後々の作業として、「工事範囲を工事区分表と照らし合わせながら確認する」、「見積内容が図面上と整合性がある」などを検証するために必要となります。
⑫スケジュール管理を行えるように自社内の体制を整える
スケジュールは自社で管理できるようにしましょう。スケジュール管理を貸主側や施工会社に任せてしまうと、必要な作業期間を充分に確保できずに工事費が高額となるリスクとなります。PM(プロジェクトマネージャー)によって進捗確認の頻度や方法などのルールを予め決めておくと良いでしょう。
⑬施工会社に見積もり依頼を行う
事前に施工会社には見積の一式計上を避けるように伝えるようにしましょう。よくある見積として、工事の解体工事、電気工事、防水工事などの明細ごとに、材料費と人工代、数量などといった項目を分けて見積を作成してもらうと良いでしょう。よくある見積としては、解体工事一式で◯◯円などと単価も数量もまとめて計上した見積が提出されることがあります。この場合、相場や他社相見積もりと比較することが困難となります。相見積もりを比較する時には、基準を明確にすることが必要となります。しっかりと内容を検証するためにも項目別で単価、数量を出し分けてもらえるようにしましょう。
見積を依頼する時のポイントについては、下記コラムをご確認ください。
見積依頼する時に気をつけるべき点
https://nac-s.net/media/column/a32
施工会社は見積提出を遅らせようともするのでその点を理解して期限内に見積もりを提出されるよう依頼を行いましょう。特にB工事会社のこの特性を理解し、的確に管理会社や指定業者に見積指示をすることが重要です。C工事は複数の適切な会社に対して相見積もりの形式で依頼できているかが重要な要素です。また、オフィス移転の場合だと、いらなくなった什器も発生する可能性もあることから買い取り業者など入れるかどうかも検討が必要です。
⑭スケジュール通りに見積が提出されるよう進捗確認を行う
スケジュールの遅れは工事費の高騰に繋がるものです。そのため、PM担当者は積極的に関係各所に進捗確認を行うと良いでしょう。

施工会社から見積を受領した後にすべきこと
⑮受領した見積を検証する
⑮-1 見積内容と設計図の内容に整合性があるかを確認する
見積と図面一式の内容が合っているかを確認するようにしましょう。例えば、電気工事の項目であれば見積書に記載されている数量・長さと図面上から読み取れる配線の面積や数量が一致しているかなどです。
⑮-2 見積にある人工代と作業量が妥当であるか確認する
図面から読み取れる作業量と見積に記載されている人工代が妥当であるか確認するようにしましょう。例えば、原状回復で出た不要な資材を運び出すべき量と見積に記載がある搬送費(作業員数と稼働日)に妥当性があるかなどです。
⑮-3 設備や部材が契約時のものと同等のグレードであるかを確認する
原状回復工事は契約時点の状態に戻す工事です。契約時点の設備以上のグレードになっている場合、不必要なコストを負担させられている可能性があります。そのため、契約時点での設備と同グレードのスペックであるかを確認しましょう。
⑮-4 見積内容と工事区分表に記載された内容に間違いがないか確認する
弊社が今までにご支援した案件の中には、工事区分表ではオーナーの費用負担であるA工事と設定された工事が、テナントの費用負担となるB工事となっているケースがありました。また、B工事と設定された工事を、貸主側に交渉しA工事やC工事に変更することができれば費用低減することが可能です。
⑮-5 各見積項目内容をチェックし、相場感から妥当であるかを確認する
特にB工事は指定業者であることから相見積もりの競争原理が働かず、見積の各項目は相場と比べても高額になりがちです。単価などをチェックし精査することで根拠を持って交渉を行えるよう準備すると良いでしょう。見積書の確認すべきポイントについて、詳しくは下記コラムで解説しています。
原状回復工事の費用交渉に役立つ|見積書で確認すべき5つのポイント
https://nac-s.net/media/column/a326
⑯関係各所と見積内容や契約関連について調整(交渉)を行う
今まで確認や準備してきたことを基に工事内容の調整を貸主側と図ります。工事の計画には、多くのステークホルダーが存在します。デベロッパー、管理会社、内装管理室、指定業者、設計会社、C工事会社などです。これらの関係性や背景を把握し必要な相手に必要な情報を持っていき、折衝していくことが工事費の適正化には必要なことになります。
⑰原状回復工事を発注する
最終的な契約書や見積内容を確認し、工事発注を行います。
⑱着工する
⑲竣工する(オフィスの引き渡しを行う)
工事を終える前に工事の内容をみて、工事が予定通りの内容で完了するか確認するようにしましょう。また、貸主側にも問題がないかを確認してもらい、オフィスの引き渡しを滞りなく行えるようにしましょう。
オフィスの原状回復において工事費を削減していくことは可能
例えば、「見積もりを取得したが高額だった」、「工事業者が指定業者である」、「提出された見積に対して交渉したが金額が下がらなかった」場合でも工事費を低減していくことは可能です。しかしながら、見積を査定し工事会社と交渉していくには、相応の知識や見識、経験が必要となります。その様な時には原状回復工事のコンサルティングも行う会社に依頼するのも一つの手段になります。
株式会社ナックス 代表取締役
建築関係の専門学校を卒業後、デザイン会社に入社。 その後、コスト削減のコンサルティング会社に転じ、企業の工事費削減に取り組む。2012年に独立し、2013年株式会社ナックスを設立。完全成功報酬型の工事費削減サービスや工事の計画を個別対応するトータルサポートのサービスを提供中。今までに中堅中⼩企業から⼤⼿上場企業様まで幅広く⽀援し、 取組実績数は800件を超え、平均削減率約23%を実現している。

合わせて読みたいその他関連記事はこちら
原状回復工事とは|法人向けに用語や相場・単価・工事費の削減するためのポイント
https://nac-s.net/media/column/a96
A工事、B工事、C工事とは?工事区分についてわかりやすく解説
https://nac-s.net/media/column/a153
原状回復工事の費用交渉に役立つ|見積書で確認すべき5つのポイント
https://nac-s.net/media/column/a326
原状回復、現状回復、現状復帰、原状復帰、原状復旧の用語を丁寧に解説
https://nac-s.net/media/column/a314
オフィス移転・事務所移転の費用とは?見積の削減ポイントも紹介
https://nac-s.net/media/column/a329
飲食店舗の原状回復のポイントとは|店舗撤退・閉店の時の対応
https://nac-s.net/media/column/a331
