田辺 陽
クリニック開業する際には、物件の取得、医療機器などへの投資もあり多くの資金を必要とします。その中でも工事に関わる予算は、大きく占めることになります。
しかしながら、内装デザインを自分自身の考えから良し悪しの判断はつけられたとしても、工事の内容となると経験が少ない上に専門知識を要することから、適切に進めていくことは難しいです。
今回はクリニック開業における内装工事で気をつけるべき点について解説します。
まず理解しておくべきことは、クリニックを開業しようとして工事の見積もりを取得すると、高額であるケースが多いということです。当社がこれまでご支援してきたクリニック様の見積を拝見してみても、相場より高い傾向にありました。
高くなる要因の一つとして挙げられるのは、医師は高所得であり資金があると世間的には認識されているため、工事費用を相場より高くしても大丈夫だろうと思われていることです。
また、クリニックの立地は、集客が見込みやすいオフィスビルや商業施設、駅近くのテナント物件に入居することが多いことも要因として挙げられるでしょう。その様な物件の場合にはB工事と呼ばれる気をつけるべき工事があります。
当社にはクリニックを開業する方より、「融資を受ける段階でB工事費用が出てきたが高額だったため、融資が進まず困っている」、「入居の内装工事の見積もりを受け取ったが高くて困っている」などのご相談を多くいただきます。
そのため、前述したような前提を踏まえて、工事内容が適切かどうか、単価が割高になっていないかなど注意を払い事前対策していく必要があります。
DAIKIN社がクリニック経営者に対して、「開業にあたり工事をどのように対応したか」のアンケートを行い、その内容を公開しています。アンケート結果(※1)を要約すると下記がトピックとして挙げられます。
・クリニック経営者の約56%が「紹介」された内装工事会社に発注している
・内装工事会社を「探していない」という回答も約13%いて、「紹介」と合わせると約70%が自分で工事会社を探していない
・工事会社から見積もり取得した数は、22.4%の方が「事前見積自体を取得していない」、34.1%の方が「1社のみ」と半数以上が相見積もりを実施していない
・工事会社を決めた理由の1位は、「予算」(47.6%)、2位はデザイン性(38.1%)
以上のトピックをまとめると、多くのクリニック経営者は、「予算を一番に気にしながらも、内装工事会社は「紹介」された会社で、かつ、相見積もりを取らずに発注している」と考えられます。
そのため、工事費を精査できずに高額な見積のまま発注してしまっている可能性があると考えられます。
さらに、日経メディカル開業サポートによるアンケート(※2)によると、開業の際に「約7割の医師が開業コンサルタント会社を活用する」そうです。工事会社を紹介されている経緯は、この点も影響していると見受けられます。
(参考)
※1:DAIKEN「【第1回】クリニック経営者108名に聞いた「内装工事の発注先」、【第2回】クリニック経営者108名に聞いた「開業時の内装工事にかけた費用」
工事費は極力抑えたいところですが、いざクリニックを開業するとなると、医師として勤務しながら開業に伴う多くのタスクをこなすため多忙を極め準備もままならないことでしょう。その様な中、工事に関わる内容もしっかりと時間を作って進めることは難しいとも思います。そのため、ノウハウを持った第三者にアドバイスを受けながら進めることになるでしょう。
開業コンサルなどのアドバイザーに頼ること自体は悪いことではないのですが、ポイントを抑えていなければ工事費が高額になってしまうため注意が必要となります。
それではどういった点に注意して内装工事を進めると良いのでしょうか。
クリニックに限らず何かの業態を開業する際に、紹介された工事会社1社のみから選ばないことです。なぜならば、紹介先1社のみの見積では、工事会社側も他競合がいないことから受注出来る可能性が高いと判断し、見積金額を少しでも高くしようと考えるからです。
見積もり依頼する時には必ず「相見積もりを行う」、「見積もりは複数社から取得する予定である」ことを伝えるようにしましょう。
工事の相見積もりを行う際には、設計(デザインやレイアウト)と呼ばれる基準が必要となります。設計が無い状態で見積もり依頼を行ってしまうと、各社が好きなように提案してきてしまい、何を持って良い悪いの判断をするのかが不明瞭になります。そのため、まずはどの様な内装にしたいのか開業する側の考えを整理して、設計に落とし込んでいく作業が必要になります。
(参考)設計と施工の考え方について
工事を行う「施工」を、設計する会社と一緒に依頼するのか、設計する会社と施工する会社を別にするかで進め方が変わります。詳しい内容は下記コラムをご参照ください。
設計施工の分離発注方式、一括発注方式とは-メリット、デメリットを解説
https://nac-s.net/media/column/a341
B工事とは、工事区分の種類のことです。物件、施設側の指定業者で工事をしなければなりませんが、工事費の負担は発注主側となる工事です。B工事は主に建物の資産価値を保つための設備で建物全体に影響を及ぼす箇所(給排水管、防水防災、分電盤の設備など)が対象となります。
B工事は、指定業者となるため工事費が高額になる傾向にあります。工事区分を適切に理解し、「設計時にB工事へなるべく影響が出ないようレイアウト作成する」、「適切な工事スケジュールを組み交渉期間を設ける」、「状況によりB工事からC工事へと区分の調整を行う」などの対策が必要となります。
B工事に関する詳細は下記コラムを御覧ください。
A工事、B工事、C工事とは?工事区分についてわかりやすく解説
https://nac-s.net/media/column/a153
B工事は高額になりやすいため交渉によって少しでも費用を低減していきたい工事です。しかしながら、指定業者は物件オーナー側の顔色を見ていることが多く、入居するクリニック側の言う事を聞いてくれないことが多いです。
なぜならば、ビジネスとしても入居するオーナーが去った後でも付き合いが続く施設側との関係を重視するからです。そのため、入居側の立場である開業コンサルが交渉にあたっても相手にされない可能性は高いです。そして、C工事会社に交渉をお願いしたとしても、「B工事の指定業者の背後には大手ゼネコンがいる可能性がある」、「指定業者のコントロールによりC工事がスムーズに進められなくなるリスクがある」ことから、交渉したがりません。
そもそも、B工事費用の削減には建設、建築に関する見識や経験の他にも指定業者とビル側の関係性や契約の背景からどの様に話をしていくかを順序立てて進めていく必要がある難易度の高いものです。
工事費を適切にしていくための「スケジュールを適切に組む」、「工事区分と見積内容を検証する」、「基本設計の段階でB工事区分を意識して作成する」、「漏れの無い設計図面を作成する」、「指定業者の考え方、背景を理解して交渉する」などを考慮しながら進めることで工事費を低減していくことができます。
ナックスでは、「クリニック開業コンサルタント会社に依頼されている」、「工事業務をPM会社にいらいしている」ケースにおいても、成功報酬でご支援することが可能です。
クリニックの内装を作る時にどの様な点に気をつけるとよいかをお伝えします。
クリニックの場合には、医療機器や検査機器などの設備に必要な弱電工事(電源、インターネットなどのインフラ関係工事)を踏まえながら、医師やスタッフ、来院者の導線を効率的に組めるよう設計していく必要があります。
診察室と処置室、待合室、バックヤードの導線などを不自由なく過ごせるようレイアウトしていく必要があります。
クリニック、病院は1床でもベットがあるのであれば、特殊建築物にあたります。(100㎡以下は除く)特殊建築物とは建築基準法にて定められている特殊な設備や構造を持った建物ことです。学校や旅館、工場や倉庫も特殊建築物に該当します。
クリニックの場合、建築基準法の他、バリアフリー法や地域の条例にも対応する必要があり様々な要因が設計レイアウトに影響を与えます。
クリニックの内装として、工事費を適切にしていくための動きはレイアウトを作成していく段階から始まっています。そして、理想の内装を作り上げていくには、法令を遵守しながら自分たちが希望するデザインや意匠を作りこんでいく必要があります。
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