田辺 陽
オフィス、事務所の移転を計画される場合に、気になるのがプロジェクト全体にかかる費用です。オフィス移転のプロジェクトは規模や内容にもよりますが大きな費用と時間を要します。オフィス移転にかかる費用の中でも、とりわけ大きな割合を占める項目は工事費用です。オフィス移転の費用を抑えながらプロジェクトを推進していくには、内容を理解することは当然のことですが、ポイントを抑える必要があります。
オフィス移転プロジェクトは、総務部や管理部の方が中心となり進めていくことが多いようです。オフィス移転はそう何度も実施されるものではないため、社内にノウハウは溜まりにくく、担当者の知見や経験も充分であるケースは多くありません。このコラムではオフィス移転における工事業務を中心に解説していきたいと思います。
オフィス移転にかかる費用には大きく分けると、下記のような項目があります。不動産の取得費用や工事費などは金額としても大きくなるため、準備しないでいると高額な見積や契約となってしまうので注意が必要です。
(1)入居中のオフィスの退去費用(原状回復費用)
(2)移転先オフィスのデザイン、レイアウト設計
(3)移転先オフィスの内装工事
(4)賃貸借契約に伴う敷金や仲介手数料
(5)備品や什器の購入費用
(6)引っ越し費用
(7)不用品の廃棄費用
(8)その他諸費用
法人用の物件の場合、退去する際において物件を契約時の元の状態に戻すことが賃貸借契約書に記載されていることがほとんどです。そして、借主(テナント)側が原状回復費用を負担し、契約した状態に戻す義務が発生します。
オフィス物件は飲食物件などとは異なり、床、壁、天井がある状態で契約するため、原状回復を行う際に元に戻す必要があります。例えば、契約した時からスプリンクラーなどの防災設備や空調機器などを移設している場合には、原状回復義務において元に戻すことになります。そうすると、当然ながら原状回復費用はその分割高になるのです。
また、工事にはA工事、B工事、C工事という工事範囲の概念があります。その中でもB工事は貸主(オーナー)側が施工会社を指定しながらも、費用負担は借主側にある工事のことを言います。B工事は指定業者となる(複数業者から選定ができない)ため、特に高額となりやすくしっかりと対策をしなければなりません。
さらに、グレードが高いオフィスビルであれば、B工事はさらに高額になりやすい傾向にあります。デザイン、レイアウト設計は、設計担当者と検討しながら、執務エリア、会議室などをどこにどう配置するかをレイアウトし図面に落とし込んでいくことを言います。適切なレイアウトを作成していくには、事前にオフィス移転で達成したい目標やコンセプトを整理し、それらを実現できるように作り込む必要があります。
また、オフィスのレイアウトは、会議室と執務室の間仕切りをどこに設置するかで、その後の工事金額に大きな影響を与えます。例えば、会議室の間仕切りの配置箇所によっては、空調設備の移設や換気類などの調整が必要なケースもあり、B工事が追加で発生するためです。デザイン面や仕事を行う上での効率性を踏まえ目標達成することを前提に、その後の工事のことも考えて作り上げていく必要があります。
移転先オフィスの内装工事は、「執務室、会議室などを作り上げる工事」、「換気や照明関係の設備工事」、「LANや電話などのネットワーク工事」のことなどを言います。そして、入居中オフィスで原状回復工事のB工事が発生するように移転先の内装工事においてもB工事は発生します。B工事は主に専有区画内にあるビル全体に影響がある設備(分電盤、給排水管、防水、防災の設備など)が対象となります。このB工事も高額となることが多いため、注意するようにしましょう。B工事は、C工事と呼ばれる借主が選んだ工事会社による内装工事、電話工事、インターネットの配線工事などに先行して行われます。移転先の内装工事を終えないと現在のオフィスから引っ越しができないため、うまくスケジュール調整を図らなければなりません。移転プロジェクトの担当者は、設計会社、B工事の指定業者、C工事を担当とする工事会社とうまく連携、調整しながらプロジェクトを進める必要があるのです。
物件と賃貸借契約を締結するとなった場合に、その物件を取得するための費用が発生します。条件については物件ごとに異なるため、事前に確認するようにしましょう。下記に一般的な内容を記載しますので目安としてお考えください。
「前家賃」 入居月と翌月2ヶ月分の支払いの発生が一般的です。
「敷金・礼金」 オフィスビルの場合には、敷金は6ヶ月〜12ヶ月分の家賃、礼金は1ヶ月〜3ヶ月程度が設定されており、貸主に支払う費用です。
「仲介手数料」 移転する物件を仲介した不動産会社に支払する費用です。賃料の1ヶ月分となりますが、物件の人気度や仲介する会社によって企画料や広告料などが設定されるケースがあります。
「火災保険料」 ほとんどの物件にて契約時の必須事項として設定されています。2年契約で2万円〜3万円前後が一般的です。
新しいオフィスの執務室や会議室などで使用する机、椅子、ロッカー、OA機器関連などの費用項目です。什器については設計会社、工事会社、コンサル会社などから提案を受けることもできますし、気に入っているものがあれば、メーカーから直接購入し揃えることも可能です。また、現在使用している備品、什器関係で再利用できるものがあれば、購入費用を浮かせることができます。
引っ越し費用は、入居中オフィスから移転先のオフィスへ持ち運びするための運搬費が主な項目になります。運搬費は様々な要素、条件で料金が変動します。運搬量はもちろんのことですが、移転先オフィスビルの状況(階段や通路の幅、エレーベーターの有無、作業可能時間など)も影響します。また、引っ越し時期も大きく影響し、繁忙期である1月〜3月、9月〜12月、5月を避けると費用を抑えられる可能性があります。
不要になった什器を廃棄しようとすると、処理の資格を持った業者に依頼する必要があります。処理業者の対応期間や提出書類の準備などに時間がかかるので早めに準備に取り掛かると良いでしょう。引っ越し業者によっては、廃棄も一括で引き受けてくれる場合もあるので、担当者が移転プロジェクト推進に集中したい場合は活用を検討しましょう。
オフィス移転に伴う住所変更などをホームページや会社案内、名刺などで修正する場合に発生する費用などです。場合によっては取引先に移転のご案内を出す必要があるかもしれません。また、住所変更の手続きを関係各所(法務局、税務署など)で行うことも忘れないでおきましょう。
上記の通り、オフィス移転のプロジェクトにおける費用項目は多数あるため、依頼する協力会社も複数となり調整を図っていくことが煩雑にります。さらに、プロジェクトは長期に及ぶため、先を見据えながら計画を前もって立てていく必要があります。この項目では、オフィス移転を進めていくうえで注意する点、進め方のポイントをお伝えします。
入居中のオフィスの解約通知は6ヶ月前であることが一般的です。6ヶ月という期間は、プロジェクトを進めていく上で、実はそこまで余裕のある期間ではありません。そのため、解約予告を出す前から、退去日を想定した上で逆算をしながらスケジュールを作成すると良いでしょう。スケジュールには、移転先オフィスの設計期間、C工事を行う工事会社の選定および調整期間、C工事およびB工事の見積期間、発注期限、交渉期間、工事期間などを考慮して設定しましょう。不明な点がある場合は、仮置きでも構いません。B工事およびC工事の見積内容の精査や交渉期間をしっかりと設定することがのちのち工事費含む全体プロジェクト予算を削減することに繋がります。例えば、工事会社の見積提出から発注までの期間を短く設定していると、見積の精査および工事会社との交渉ができずに、金額が高額なものになってしまったということもあります。
プロジェクトを進めていく上でも、しっかりとスケジュールを管理していくことが重要になります。そのため、プロジェクト全体を管理する立場であるプロジェクトマネージャーがスケジュールを管理していくと良いでしょう。管理する項目としては、「移転プロジェクト全体のスケジュールやコスト管理」、「新オフィスの内装デザインの社内調整」、「協力会社(設計会社、工事会社、引っ越し業者など)との調整」などが挙げられます。プロジェクトにはやることがたくさん発生するため、プロジェクトマネージャーの管理も広範囲となります。そのため、社内の各部署から担当者をプロジェクトに参画させるなどの体制にして連携をうまく図れるようにすると良いでしょう。しかしながら、工事関連業務は内容をみていくと、設計、内装工事、電気工事、防災工事、設備工事、電話、LAN工事など多岐にわたり、それぞれで専門的な知識が必要になります。知識をうまく補完してくれる外部パートナーと連携しながら進める手法も検討しても良いでしょう。
オフィス移転業務をトータルでサポートしてくれるコンサルティング会社は、主業務と並行して移転プロジェクトをこなさなければならない担当者にとって大きな助けになります。オフィス移転コンサル会社は、レイアウト作成、工事や引っ越し、備品の手配などの移転業務を一括で請け負ってくれます。場合によっては、物件探しから支援してくれる不動産系のコンサル会社も存在するほどです。移転する側としては、原則、コンサル会社1社と連絡を取り合う体制となるので、現場の負担軽減となり業務を効率的に進めることができます。
しかし、オフィス移転コンサル会社に依頼する中でも、「PM(プロジェクトマネジメント)業務を担うコンサル会社」に依頼する場合は、注意すべき点があります。それは、見積金額が高額になりやすいB工事が、オフィス移転のPM会社では交渉がうまく進まず、結果、高額なまま発注せざるをえないケースがあることです。なぜなら、PM会社側からするとB工事交渉の相手であるビルのデベロッパーや管理会社は、今後も別の案件や紹介などでビジネス上の関係が続く交渉がしにくい相手だからです。そのため、PM会社が交渉を行うといっても面目上の交渉となってしまうこともあるのです。PM会社ではないオフィス移転コンサル会社の中にはB工事交渉をしっかりとしてくれる企業もあります。オフィス移転をPM会社に任せたとしても、B工事交渉は別のコンサル会社に任せるといった手法をとることもできます。オフィス移転コンサル会社の特徴や業務範囲について把握し、理解すると良いでしょう。
また、オフィス内装を行うC工事においても、PM会社からの紹介となると相見積もりができないケースがあります。相見積もりができない場合、実質的に指定業者と調整するような状況となるので、工事費が割高になることがあります。コンサル会社を選定する際には、事前に相見積もりが可能となるのかを確認すると良いでしょう。
この章では、オフィス移転において削減していくためのワンポイントアドバイスをお伝えできればと思います。
何もせずにいると高額になってしまうB工事。貸主の指定業者となるので競争原理が働かず、見積は高額になってしまいます。また、B工事業者は交渉期間を短くするため、見積提出を遅らせようと画策します。見積書の内容をしっかりと精査し、契約書や工事区分表などの資料との妥当性などを確認し、指定業者と交渉していく必要があります。
A工事、B工事、C工事についての削減ポイントの詳細は下記コラムでも解説しています。
A工事、B工事、C工事とは?工事区分についてわかりやすく解説
https://nac-s.net/media/column/a153
C工事のレイアウト次第でB工事範囲も広がる可能性があるため、設計士の方にB工事を意識しながら、設計いただくよう伝えると良いでしょう。また、なるべく設計業務と施工業務を分離して発注することも重要です。設計費用はかかりますが、費用割合の大きい工事費を同一基準で相見積もりすることができるので、結果としてC工事における総費用を低減することができる可能性を高めるのです。まずは設計と施工を分離できるのかの検証を行うようにしましょう。
内装工事(C工事)の提案は、相見積もりを取得し内容を比較検証できるようにしましょう。相見積もりをしっかり精査するためには、各社自由に提案させるのではなく、提案の基準を揃える必要があります。そもそも基準が揃わないと見積の比較ができないためです。そのためにも、なるべく設計業務を工事会社と切り離し作成することをお勧めします。また、見積を依頼する際には、費用項目を一式まとめてではなく、電気工事、床工事、LAN工事…などと工事の項目ごとに単価と数量を分けて、細かく出してもらうよう指示しましょう。
もし、不用品が発生した場合、不用品業者への連絡を行う前に、買取業者に査定してもらい、買取してもらえるものがないか確認すると良いでしょう。もし、買取してもらえるようであれば、その買取で得た資金を新しい什器、備品などに充てることができます。
オフィス移転における工事は、入居中の原状回復工事、移転先の内装工事の2回、B工事と呼ばれる高額な工事が発生します。しかしながら、見積を取得したとしても、どれくらい高額であるかの判断を自身で行うには、見識や経験が発注者には不足しており困難を極めます。さらに、工事会社と価格交渉していくにも、契約内容や相手方の背景や交渉期間を踏まえて進めていかなければなりません。そもそも交渉となると、経験が浅い方にとっては難易度が高いものです。そのため、場合によっては専門家に頼るのも一つの手だと言えるのです。
G.Sブレインズ税理士法人
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https://nac-s.net/media/customer/a18
株式会社ABEJA
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https://nac-s.net/media/customer/a19
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