田辺 陽
工事は、誰が工事を行う会社を指定し、誰が費用負担をするのか等でA工事、B工事、C工事という区分に分けられます。
総称してABC工事と呼ばれていますが、工事区分について理解し工事を計画しなければ、後々に高額な工事費を請求されるなどの問題が生じる可能性があります。
本コラムにおいては、A工事、B工事、C工事の区分の内容や気をつけるべき点、工事費を適正にしていくためのポイントをお伝えします。
ABC工事の区分を決める項目は主に4つです。これらの項目は、「どの工事会社に」「誰が発注して」「誰の費用負担で」「何の工事を行うのか」を表しています。
・工事会社の指定(どの工事会社に)
・工事会社への発注(誰が発注して)
・工事費用の負担(誰の費用負担で)
・主な対象工事(何の工事を行うのか)
これらの項目を工事区分であるA工事、B工事、C工事を整理すると、下記表のようになります。
A工事 | B工事 | C工事 | |
---|---|---|---|
工事会社の指定 | オーナー | オーナー | テナント |
工事会社への発注 | オーナー | テナント | テナント |
工事費用の負担 | オーナー | テナント | テナント |
主な対象範囲 ※対象範囲は物件により異なります |
施設の共用部 エレベーター、共用トイレ 共用通路 標準的な設備 等 |
分電盤 給排水 防水防災設備 厨房給排気 空調設備 等 |
内装工事 什器備品 照明器具 電話工事 等 |
誰が工事会社を指定する決定権を持っているかの項目になります。
建物(物件)に、エレベーターや電気関係、防災・防水関係など建物全体に影響を及ぼす設備があるケースもあります。
この様な設備を工事する場合には、建物全体への影響を考慮してA工事やB工事としてオーナー側が工事会社を指定することになることが多いです。この様なオーナーが指定する工事会社のことを指定業者と呼びます。
工事を行う工事会社に誰が発注するかの項目です。
B工事の場合は、オーナーが指定した工事会社に対して、テナントが発注行為を行うという構図になります。指定業者のみから見積を取得することになるため、テナントは競争原理が働かない中で工事を発注することになります。
このため、B工事はテナントからしてみると工事費が高額になりやすい工事と言えるでしょう。
実施する工事の費用を誰が負担するかを示す項目です。
前述した通り、B工事は発注する工事会社をオーナーが決定しますが、費用負担はテナントとなる工事になります。
特にB工事についてはしっかりと範囲や内容を把握した上で準備を行い、進めていくようにしましょう。
工事する箇所がどこでどの範囲まで行うのかの項目になります。
上記表には目安として対象工事を記載していますが、どの工事がB工事となるのか、C工事となるのかは建物(物件)ごとにオーナーの考え方で変わるので、この物件ではどこまでB工事であるかなど工事区分をしっかりと確認をするようにした方が良いでしょう。
建物を構造的に支える骨組み(躯体)にあたる部分(基礎、柱、土台、屋根)の工事や共用部と言われるエントランスやエレベーター、共用トイレなどを工事する場合はA工事になるケースが多いです。
A工事はオーナーの費用負担でオーナーが工事発注します。
主に専有区画内に備え付けられている設備で、建物全体に影響が出る箇所(分電盤、給排水管、防水、防災の設備など)と判断されると、B工事とされることが多いです。
B工事はテナント側で費用負担するにも関わらず、工事を行う会社はオーナーが指定します。
専用区画内で、内装工事や電話工事、インターネットの配線工事など建物に影響が出ない箇所が対象となります。
C工事はテナントにて工事会社を指定し、発注を行うことができます。
そのため、工事会社に相見積もりを取りながら、各社の見積内容を比較検討していくことができるので、工事費を適正にしていく動きを積極的に行うことのできる区分になります。
B工事は、オーナーが工事会社を指定するにも関わらず、テナントが工事費用を負担する工事です。
オーナーとしては、建物の資産価値が損なわないよう一定の品質以上の設備が整えばよく、工事費が高かろうが構わないと考える傾向にあります。
また、工事を行う指定業者としても、継続的に関係の続くオーナーの要望に応えることが第一優先であると考えています。
指定業者であることから相見積もりは行われず価格競争も起きないため、通常以上の利益を乗せて見積ることができるのです。
そして、指定業者1社のみということは、価格なども含めた交渉の難易度が高くなるのも特徴の一つです。
この様な背景を理解したうえでB工事については気をつけて進めていく必要があります。
それでは、B工事で気をつけるべき点とは、どのようなものがあるかお伝えします。
まず、B工事は、入居(出店)と退去(退店)の際に、2回発生するものとして、出退店を計画していく必要があります。
【オフィス移転を行う場合】
1回目:入居中の物件から退去する時の原状回復工事のB工事
2回目:新しく入居する物件の内装工事におけるB工事
【飲食店を開業するため出店する】
1回目:入居時の内装工事におけるB工事
2回目:万が一、お店を閉めるとなった時の原状回復工事におけるB工事
移転、開業するとなると途端に忙しくなるので目先の工事に意識がいきがちですが、プロジェクト全体として見ると高額になりやすいB工事は原則2回発生するのです。将来、発生する工事を含めてコストやスケジュールに問題がないかを確認し出退店の計画を行うと良いでしょう。
ただし、建物(物件)の中にはB工事区分が無いという物件もあるので全てにおいて2回発生するわけではありません。
工事の計画を進める前には、必ずA工事、B工事、C工事がどう仕分けられているのか工事区分を確認するようにしましょう。
工事区分がどの様に設定されているかは、オーナーから「工事区分表」を受領し、中身を見ることで確認が可能です。
テナントとしては、B工事区分での対象工事が少ない方が、当然ながら全体の工事費を小さくすることができます。B工事の区分のものがA工事であればオーナー負担での工事となり、C工事であれば相見積もりを行うなどして費用低減の努力をテナント側のコントロールでできるからです。
また、オフィス仕様の場合、床、壁、天井がある状態で借りることが一般的です。床、壁、天井すべてをB工事で行うとなれば相応の負担となるでしょう。
工事区分表にてテナント側でどこまでをどの様な状態に原状回復する必要があるのかを確認することができます。
費用負担をどの程度見込んでおく必要があるかは、工事区分表を確認することである程度想定することができます。
工事区分の設定は、共用トイレはA工事。分電盤や防水ならB工事などある程度の一般論としてはあります。
ただ、建物自身が持つ機能・設備やオーナーの考え方により、工事区分の設定は物件ごとに異なるので注意が必要です。
例えば、以前入居していた物件では専用区画内の分電盤工事がA工事だったのに、今回入居する物件はB工事に設定されていたということもあり得ます。また、フィットネスジム開業のため工事でユニットシャワーを設置しようとした場合、防水工事が必要になるケースがあります。
この防水工事の工事区分についても、ある物件ではテナントの意向で取り付ける工事だからC工事で良いというオーナーもいれば、別の建物のオーナーだと何か問題があったら困るという理由で、ユニットシャワーの設置自体はC工事で良いがそこに関わる防水工事はB工事にする、と考える場合もあります。
この様に工事区分の定め方は物件ごとに異なり、それが工事費に影響を与えるということをご理解いただければと思います。
B工事の気をつけるべき点を踏まえて、どのように進めていくと適正に削減していけるのか3つのポイントをお伝えします。
B工事を進めていく上でまず必要なことは、工事発注の期日がいつになるかを知ることです。
工事発注の期日がいつになるかが分かれば、そこから交渉期間や再見積もりの作成期間などを逆算してスケジュールを作ることができます。工事費を適正にしていくには適正なスケジュールを設定する必要があります。
テナント側としては、根拠を持って交渉を行うために見積もり内容を確認・精査する期間や交渉を行う複数回実施する期間が必要です。反対にオーナー側の視点を考えてみても、交渉があったからといってすぐにB工事費用を見直し、再度見積作成することはできないものです。
なぜなら、オーナー、元請けの工事会社、下請けの工事会社など多くの利害関係者が存在しており、各社を調整しながら見積もりを再度作成する必要があるからです。
良い条件を出してもらうためにも、テナントとオーナー双方が適切に物事を進められるようお互いの工数を鑑みて十分な期間が設定されていることが理想的です。
図面や契約書、見積書、工事区分表を確認し、それぞれの内容や金額に齟齬が無いかを確認しましょう。
当社の過去の案件においても、工事区分表にはA工事で記載されているにも関わらず、見積書ではB工事として見積もられテナント側で支払うことになっていたというケースがありました。工事会社が間違いのない見積もりを出してくるとは思わずに、見積内容を精査し間違っている場合には見積もりを修正してもらうようにしましょう。また、工事区分の内容や範囲を交渉により変更できるケースもあります。
しっかりと見積内容を読み解き、精査していることが前提となりますが、建物全体に影響が出ない箇所を特定できればB工事区分だったものをA工事やC工事に変更できる場合があります。B工事をオーナー負担であるA工事にできなくとも、C工事に変更することができれば自社で工事会社を選定できるので、結果として工事費の削減に繋がります。
基本設計(レイアウト図など)の内容によってはB工事費用に影響が出ることがあります。
そのため、基本設計をまとめていく時にB工事にどの様な影響を与えるのかを確認しながら進める必要があります。新しく物販店を開業することになったとして考えてみましょう。設計会社から提案を受けた店舗レイアウトからスタッフの控室を広くしたいと思ったとします。この場合、スペースを広げる方法としては控室の壁の位置をずらそうとするのが一般的な考えかと思います。
この時に気を付けなければいけないのは、壁の位置を変更することで他の設備にどう影響するのかを把握することです。壁の位置を変更すると防災の観点から、スプリンクラーの位置も変更しなければいけないことがあります。
スプリンクラーに関わる工事はB工事となることが多いので、工事費用はさらに高くなる可能性があるのです。このため、スプリンクラー工事をしないで済むようにその位置を考慮に入れながら、どの方面にスペースを広げると良いか基本設計の段階から考える必要があります。
B工事の見積もりが高額だったとしても、正しいスケジュールと手順で進めていくことで工事費を削減していくことは可能です。
しかし、見積もり内容が安いのか高いのかを査定したり、契約書と照らし合わせて妥当であるかを検証するには、一定以上の見識や経験が必要となります。
また、その後オーナー側と交渉していくにしても、商流や相手方の考え方やステークホルダーなど取り巻く環境を考慮に入れながら進めていかなければなりません。
交渉となると、工事経験が浅い方には業界用語や建設業界特有の商慣習は難しく感じられるため、場合によっては専門家に頼るのも一つです。発注者とオーナーの間に立ち、工事分野において熟知している専門家に頼るとより良い結果になるケースは多いです。
以上のようにA工事、B工事、C工事の工事区分を理解することが適正な工事発注を実現する第一歩となります。
これらの区分を理解した上で特にB工事についてよく確認しながら、工事内容やスケジュールをしっかりと計画し進めていくようにしましょう。
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