田辺 陽
コストをどう圧縮するかは、企業経営における重要課題の一つであることは言うまでもありません。工事費においてもどう低減していくかは同様であると考えます。ただ、発注者が工事費の交渉を施工会社と行うにあたり、「行ってはいけない交渉方法」があることも知っておくべきでしょう。
行ってはいけない交渉方法の一つに「根拠に基づかない価格交渉を行うこと」が挙げられます。具体的な例を挙げると、提出してもらった見積もり額の合計から「10%くらい引いて欲しい」や「●百万円を割引して欲しい」などと伝えて、見積もりの内容と関係なく割引額のみを提示し、交渉をすることです。(意外にも「○○%割引いて欲しい」と交渉している企業様がいるという話しはよく耳にします。)案件や施工会社との関係性から、この手法が有効かつ効果的な場合も確かにあります。しかし、その場合、工事費の削減自体は出来るかもしれませんが、その場合にリスクが内在していることを同時に認識した方が良いでしょう。今回は根拠に基づかない価格交渉を行った場合のリスクについて紹介します。
とある工事会社に初めて工事を依頼した時に「工事金額を10%ほど引いて欲しい」と伝え減額交渉が成功したケースで考えてみましょう。2回目に依頼する工事で同様な交渉を行っても成功するでしょうか?
単純な減額においては成功する確率はかなり高いと考えます。しかし、それは実利の無い削減と言って良いでしょう。少し分かりにくいと思いますので、解説します。
工事を請け負う業者さんは、1回目の工事の交渉で「10%割引してくれ」と言われた時に、この様に考えるでしょう。
「この発注者は頭ごなしに『10%割引してくれ』と言ってくる。次回見積もりの依頼があった時も同じ様に交渉があるだろう。」
そのため、同じ発注者から2回目の見積もり依頼があった時には、こう対応しようと考えます。
「最初から見積に10%ほど上乗せして金額を提示しよう。削減交渉となった時にその分だけ値引きすれば受注できるだろう。」
この様にして、2回目の見積金額は、実は通常よりも割増された見積り金額が提示されることになるのです。その金額から再度、同じ%で減額交渉し成功したとしても、実は適正な工事金額ではないことは明確です。
とある案件の工事金額の値引きを施工会社に了承してもらえたとします。しかし、その工事で施工会社の利益が残らなかった場合、施工会社はそのクライアントをどの様に位置付けるでしょうか。無理に受注しても利益が残らないクライアントであると認識し、次の見積依頼が来たとしても、他の案件と比べて優先度を下げて対応することになるでしょう。せっかく発注者側が「良い工事をしてもらったからとまた依頼したい」と思って別案件で連絡しても、施工会社はよく思っておらず、見積もり提案すらしてもらえなくなる場合があります。施工会社との関係性の悪化は、特に新装工事など将来工事が発生するであろう場合には、メンテナンス工事すら請け負ってもらえないこともあるので注意が必要です。
以上のように、根拠に基づかない価格交渉はリスクを抱えることになります。将来的なリスクを低減していくためにも無理な値引きの依頼などは控える様にし、根拠を持った価格交渉を行うことが重要となります。